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税務と会計の違いとは?税理士試験の勉強では教えてくれない実務のリアル


公開日:2025/06/06
最終更新日:2025/06/06
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「税理士試験には合格したけど、実務に出てからのギャップが大きすぎる…」
そう感じたことがある人は、あなただけではありません。特に混乱を招きやすいのが、「税務」と「会計」の違いです。
試験では「所得の金額を正しく計算せよ」「貸借対照表を作成せよ」といった問題を解いてきたものの、現場では「利益が出ているのに税金がかからない」「赤字なのに納税が必要」といった矛盾が次々に現れます。
本記事では、試験勉強では学べない「税務と会計の実務的な違い」と、それにどう向き合うべきかを実例を交えて解説します。
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そもそも「税務」と「会計」は何が違うのか?
会計」とは、企業の経済活動を帳簿に記録し、利害関係者に報告するための仕組みです。財務諸表を通じて、企業の状態を“見える化”する役割を担っています。これはあくまで“企業の姿”を「ありのままに伝える」ことが目的です。
一方で「税務」とは、法律(税法)に従って所得や資産を計算し、税金を確定させるための制度です。こちらは“公平な課税”を実現するためのルールに基づいています。
税務と会計の根本的な違い
項目 | 会計(Accounting) | 税務(Taxation) |
目的 | 利害関係者に対して経営実態を明らかにすること | 税額を正しく計算し、申告・納税すること |
基準 | 会計基準(企業会計原則、IFRSなど) | 税法(法人税法、所得税法など) |
対象読者 | 経営者、株主、金融機関など | 国税庁(税務署) |
性格 | 企業活動の記録と報告 | 国との法律上の約束 |
柔軟性 | 実態に合わせた判断が可能(裁量あり) | 明文化されたルールに厳密に従う(裁量制限) |
それぞれの役割の違い
会計の役割
・企業が日々の取引を記録し、月次・年次で「財務諸表」(貸借対照表、損益計算書など)を作成
・社内の経営判断や、外部(銀行、投資家、株主)への説明に使用される
・利益や資産の「実態」をできるだけ正確に伝えることが目的
税務の役割
・会計上の数字をベースに、税法に基づいて調整を加え、「課税所得」を導き出す
・納税義務を適切に果たすことが目的
・「企業の実態」よりも、「ルールに沿って税金を取れるかどうか」が重視される
帳簿上の利益と課税所得はなぜ違う?
「会計では利益が1,000万円出ているのに、税務では500万円しか課税されない」
こうした現象は実務で頻繁に起こります。
なぜなら、会計と税務では“ルール”が異なるからです。
会計と税務の代表的な違い
・減価償却:会計は耐用年数を合理的に見積もるのに対し、税務は法定耐用年数に従う。
・引当金:会計上は将来の損失に備えて計上できるが、税務では厳格な要件を満たす必要あり。
・交際費:会計では経費だが、税務では一部損金不算入(中小企業を除く)。
つまり、「会計上の利益」と「課税所得」は一致しないことが前提なのです。
試験では習わない「グレーゾーン」との付き合い方
試験では「正解」が存在しますが、実務の現場には“グレーゾーン”が大量に存在します。
この章では、試験では習わないけれど現場では避けて通れない「税務グレーゾーン」との付き合い方を、リアルな視点で詳しく解説します。
そもそも“グレーゾーン”とは?
税務におけるグレーゾーンとは、税法に明確な規定がない、または解釈の余地がある処理領域のことを指します。
つまり、黒(×)でも白(〇)でもない、“微妙な”判断が必要な領域です。
典型的なグレーゾーンの例
ケース | 処理の分岐 |
修繕費 vs 資本的支出 | 一時費用 or 資産計上 |
福利厚生費 vs 給与課税 | 非課税 or 課税対象 |
出張旅費 vs 交際費 | 損金全額算入 or 限定的損金 |
仮装経費(名義貸し・割り勘) | 実費精算 or 寄附・贈与 |
これらは「事実認定」「取引の実態」「文書の整備状況」によって処理が分かれます。
つまり、“解釈次第”で答えが変わるのです。
試験との最大のギャップ:答えが一つではない
税理士試験では、「税法に基づいた唯一の正解を導く」ことが求められます。
一方、実務では…
・取引の背景事情
・クライアントの立場
・税務調査リスク
・税務署の傾向
など、“正解ではなく、落としどころ”を探る作業が求められます。
たとえば、「これは修繕費か資本的支出か」といった問いに、明確な線引きは存在しません。
あるいは、「税務署はこう言うが、実務的にはこう処理しておきたい」という判断もあり得ます。
実務での判断基準:グレーゾーンに立ち向かう3原則
1. 説明責任が果たせるか?
税務調査で「なぜその処理を選んだのか?」と聞かれた際に、整合的な説明ができるかが最重要です。
口頭だけでなく、契約書・議事録・計算根拠の保存がカギになります。
2. 文書化されているか?
税務署と争うときに、「主張の裏付けとなる書類」がすべてです。
税務調査では“事実”よりも“証拠”が重視されることも少なくありません。
・契約書の記載内容
・日報・交通費精算書
・支出の相手方の属性(法人/個人)
これらをもとに、処理の正当性を補強します。
3. 税務署との“距離感”を把握しているか?
・あえて攻める(節税)領域か
・守りを固めるべきリスク領域か
事務所によってスタンスが異なりますし、税務署の対応も地域差があります。
実務家としての“肌感覚”が問われる領域です。
税理士の価値は「説明力」と「判断力」
税理士の真価が問われるのは、「この取引、どう処理すべきか?」という相談に、明確に答えを出す力です。
単に「グレーです」「判断が分かれます」と言うだけでは、クライアントからの信頼は得られません。
税法の条文、過去の裁決例、業界慣行、調査対応事例などを踏まえたうえで、「私はこう判断します」と言い切れるかどうか。
そこに、試験では身につかない実務の胆力があります。
「税理士=会計のプロ」ではない?誤解されがちな役割
「会計士と税理士の違いって何?」とよく聞かれますが、最大の違いはフィールドです。
・公認会計士:会計のプロフェッショナル。監査報告書の作成や上場企業の財務諸表の監査がメイン。
・税理士:税務のプロフェッショナル。申告書の作成や税務相談・代理が中心。
中小企業経営者からすると「税理士=経理・会計の人」というイメージがありますが、実際には会計処理は顧問契約の一部であり、主業務は税務です。
このギャップに苦しむ若手税理士も少なくありません。
資格 | 主な業務 | 主な顧客 | 業務対象 |
税理士 | 税務申告・税務相談・節税対策 | 中小企業・個人事業主 | 税務処理、記帳支援など |
公認会計士 | 会計監査・財務報告・IPO支援 | 上場企業・監査法人 | 財務諸表の信頼性確保 |
会計のための会計、税務のための税務
実務で特に重要なのが、「会計処理」と「税務処理」の“使い分け”です。
たとえば、ある支出を“損金”として処理すれば、税金は下がるかもしれません。しかし、金融機関に提出する決算書では利益が減ってしまう。
つまり、「見せたい決算」と「納めたい税金」は、目的が異なるのです。
経営者の意図、融資状況、税務リスクのバランスを取りながら、最適な処理を考えるのが実務の醍醐味でもあります。
結局、どこまでが「税理士の仕事」なのか?
税理士の“本来の仕事”は法律で決まっている
まず、税理士法では、税理士の独占業務(=税理士しかできない仕事)は、次の3つに限定されています。
業務名 | 内容 | 他者の代行可否 |
税務代理 | 税務署への申告や更正の請求、税務調査の立会いなど | ❌(税理士のみ) |
税務書類の作成 | 確定申告書・法人税申告書など税務関連書類の作成 | ❌(税理士のみ) |
税務相談 | 税法に基づくアドバイス(例:交際費は損金?) | ❌(税理士のみ) |
つまり、「税金の相談・手続き・書類作成」は税理士でなければできないのです。
「よく頼まれる業務」は税理士の仕事か?
税理士によく依頼されるけど、「実は誰でもできる(=税理士以外もできる)」業務も多くあります。
業務内容 | 税理士の独占業務か? | 実務で依頼されがち? |
記帳代行(仕訳入力など) | ❌(誰でもできる) | ◎(多くの顧問先が依頼) |
試算表・決算書の作成 | ❌(誰でもできる) | ◎(税理士が請け負うこと多) |
経営アドバイス(資金繰り・補助金など) | ❌(誰でもできる) | ○(付加価値サービスとして提供) |
融資サポート(事業計画書作成など) | ❌(誰でもできる) | ○(金融機関対応で必要) |
給与計算・年末調整 | ❌(社労士・会計ソフト等も可) | ◎(ワンストップで依頼される) |
社会保険手続き | ❌(社労士の独占業務) | △(税理士では原則不可) |
結局、どこまでが税理士の“守備範囲”?
業務内容 | 区分 | 備考 |
法人税・所得税・消費税の申告 | 独占業務 | 税務署への申告は税理士以外できない(税理士法第2条) |
税務調査の立会い・代理 | 独占業務 | 修正申告・更正の請求などの交渉含む |
税務書類の作成(申告書・届出書等) | 独占業務 | 自分で書くのはOKだが、他人の分を代行するのは税理士のみ |
税務相談(課税・非課税、控除適用など) | 独占業務 | 税法に基づく判断の提供は税理士の専門領域 |
記帳代行(仕訳・帳簿作成) | 任意対応 | 税理士でなくても対応可能。業務委託や会計ソフトも可 |
試算表・決算書の作成 | 任意対応 | 会計処理は税理士以外(経理担当や会計士)も可能 |
経営分析・資金繰り支援 | 任意対応 | コンサル的業務。税理士が希望に応じて対応する |
事業計画書・融資書類の作成支援 | 任意対応 | 補助金・金融支援でニーズ増。明確な法的独占ではない |
年末調整・法定調書の作成 | 任意対応 | 社労士と重なる領域。税理士も対応可能(顧問範囲による) |
給与計算 | 任意対応 | 税理士でも対応可だが、社労士に外注するケースが多い |
労働保険・社会保険の手続き | 他士業領域(社労士) | 社会保険労務士の独占業務 |
会社設立登記・定款作成 | 他士業領域(司法書士) | 登記申請は司法書士の独占業務 |
契約書の作成・法務相談 | 他士業領域(弁護士) | 法律行為に関する代理・相談は弁護士の専権業務 |
会計監査 | 他士業領域(公認会計士) | 上場企業・大法人などの財務諸表監査は会計士の領域 |
顧問契約で大切なのは「業務範囲の明確化」
税理士に多くを期待しすぎてトラブルになる例も多くあります。たとえば以下のような事例が起こり得ます。
・顧問料に「記帳代行が含まれていると思っていた」
・税務以外の経営相談まで当然だと思っていた
・年末調整も“自動でやってくれる”と思っていた
こうした誤解を避けるためには、契約時に「どこまでが顧問範囲か」を明確にすることが重要です。
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まとめ
税理士試験はあくまで“通過点”。現場で本当に必要なのは、次のような力です。
・会計と税務のルールの違いを理解した上で、最適な処理を判断する力
・クライアントの目的に応じて会計数字を“翻訳”する力
・税務署や金融機関など、複数の利害関係者と渡り合う説明力
そして何より重要なのは、「正解を知っていること」よりも「納得させられる説明ができること」です。
税務と会計の違いを理解し、それぞれの役割と立場を使い分けることこそが、実務における“プロの税理士”の第一歩なのです。
この記事がお役に立てば幸いです。

平川 文菜(ねこころ)