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MASとは?税務顧問との違いと、今あらためて注目される理由


公開日:2025/06/03
最終更新日:2025/06/03
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経営者の相談相手として、あなたは何を求められているでしょうか?
「節税のアドバイス」や「申告書の作成」だけでは、もう足りない時代が来ています。
企業が求めているのは、数字の向こうにある「意思決定の支援者」。
そこで注目されているのが、MAS(経営助言業務)という新たな役割です。
これは、会計や税務の枠を超え、経営全体を“数字で支える”伴走型のサービス。
経営者の悩みに寄り添い、現状を分析し、未来への打ち手を提案するのがMASの本質です。
本記事では、MASの基本概念から、税務顧問との違い、具体的な導入事例までをわかりやすく解説します。
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MASとは?その基本概念を理解する
MASの定義と概要
MASとは「Management Advisory Services(経営助言業務)」の略称で、税理士や会計士などの専門家が、企業の経営判断に対して専門的なアドバイスを行う業務を指します。従来の「税務・会計処理」だけでなく、経営の意思決定を支援する伴走型のコンサルティング業務という側面が強いのが特徴です。
主な支援内容には以下が含まれます:
・経営計画・事業計画の策定支援
・予実管理の体制づくり
・財務分析・経営指標の可視化
・キャッシュフローの改善提案
・資金繰り・資金調達のアドバイス
・経営会議でのモニタリング支援 など
単なる「記帳・申告の延長」ではなく、経営者の意思決定をデータと論理でサポートするサービスである点が、MASの本質です。
MASが注目される背景
近年MASが注目される背景には、以下のような構造的な変化があります。
1. 税理士業務の「差別化」が求められている
税務申告・記帳代行といった業務は、IT化・クラウド会計ソフトの普及により単価が下落傾向にあり、価格競争に陥っています。この中で、「経営支援ができる税理士」への期待が高まり、MASへの関心が高まっています。
2. 中小企業の「かかりつけ医」ニーズの高まり
中小企業では、経営判断に不安を抱える経営者が多く、身近に相談できる相手を求めています。税理士が数字を根拠に経営の方向性を示すアドバイザーとして機能することで、他士業との差別化にもつながります。
3. 認定支援機関制度との親和性
国が進める補助金や資金調達支援において、「認定経営革新等支援機関」の役割が強化される中、MASの業務内容はそれら支援制度と高い親和性を持っています。実際の支援実績が認定要件として評価されることもあり、税理士事務所としてのブランド強化にも寄与します。
4. クライアントとの関係が深化しやすい
税務顧問契約だけでは表面的なやり取りになりがちですが、MASを通じて「一緒に経営を良くしていく」という関係性が生まれ、長期的な信頼関係の構築につながります。
MASと税務顧問の違いとは?
1. 役割と機能の比較
項目 | 税務顧問 | MAS(経営助言業務) |
主な目的 | 法令に基づく税務処理・税務申告の支援 | 経営判断の支援、企業価値向上のサポート |
提供対象 | 税務署への提出書類、税務調査対応 | 経営者、幹部、経営会議 |
主な業務内容 | 記帳代行、税務申告書作成、税務相談など | 経営計画、資金繰り改善、予実管理支援など |
アプローチ | 過去の数値に基づく処理 | 未来を見据えた計画・シミュレーション |
コミュニケーション頻度 | 月1回など定型的 | 月1~2回以上、経営会議同席など継続的 |
契約形態 | 税務顧問契約 | MAS契約(別途コンサル契約など) |
提供スタイル | 「受け身」:相談があれば回答する | 「能動的」:課題を見つけて提案する |
2. 具体的な違いの例
◆ 例①:赤字が続くクライアント
・税務顧問の場合:
「赤字なので納税額は0円です」と説明して終わる。
節税や経費処理についての助言はあるが、根本的な経営改善には踏み込まない。
・MASの場合:
「なぜ赤字なのか?」を財務データから分析し、
・利益構造の問題(粗利率が低い?)
・固定費の過多(人件費が適正?)
・商品戦略の見直し提案(値付けの最適化など)
などを提示し、黒字転換のアクションプランを設計。
◆ 例②:資金繰りが厳しいクライアント
・税務顧問の場合:
「納税資金が不足しているなら、分納の手続きをしましょう」と対応。
資金調達やキャッシュフロー分析は行わない。
・MASの場合:
資金繰り表を作成し、現状把握。
今後の入出金を予測し、金融機関との調整や補助金の活用、リスケ交渉など、抜本的な資金繰り改善策を提案。
◆ 例③:新規事業を検討中のクライアント
・税務顧問の場合:
「法人を設立するなら税率は○%で…」と税務的な手続きや設立届の説明にとどまる。
・MASの場合:
新規事業の収支シミュレーション、市場分析、販路開拓の戦略までをサポート。
事業計画書を一緒に作成し、金融機関・投資家への説明支援も行う。
MASの具体的な実践方法とは?
MASを成功させるには、「分析→可視化→提案→伴走支援」というプロセスを意識した継続的な支援が必要です。以下に代表的な実践手法を紹介します。
1. MASを活用した会計分析の手法
MASでは、「過去の数字を未来に活かす」ために、会計データをもとに経営判断へとつなげる分析手法を用います。代表的なものを以下に整理します。
分析手法 | 概要 | 活用目的・効果 |
財務三表分析 | 損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書を読み解く | 全体的な財務状況の把握と課題抽出 |
損益分岐点分析 | 固定費・変動費・売上高の関係を分析 | 利益が出る売上水準を明確化 |
KPI(主要業績指標)設計 | 営業利益率、労働分配率、在庫回転率などを定点観測 | パフォーマンスを数値で可視化 |
セグメント別収支分析 | 店舗別・商品別・顧客別などで収益性を比較分析 | 儲かっている部門・顧客の特定と戦略見直し |
キャッシュフロー予測 | 将来の資金繰りを月次単位でシミュレーション | 資金不足の予防とタイムリーな対応 |
これらをグラフ・表・ダッシュボードで可視化し、経営者との対話を通じて意思決定に落とし込みます。
2. MASの実践プロセス(6ステップ)
1.ヒアリングと現状把握
経営者から課題や目的をヒアリングし、現状の経理体制・数値・管理指標を把握
2.財務分析と課題の可視化
PL・BS・CFなどを分析し、経営課題(粗利率の低下、販管費過多、資金ショートリスク等)を抽出
3.経営目標とKPIの設計
「いつまでに、何を、どのレベルで」達成するかを数値化し、KPIを設計
4.経営計画・アクションプランの策定
中期(3年)・短期(半年〜1年)の経営計画を作成。重点施策・予算・担当者を明確化
5.モニタリングと伴走支援
毎月or隔月で経営会議に同席し、KPIの進捗確認と改善策の提示
6.継続改善と戦略的支援
経営環境や成果に応じて計画を見直し、経営者の意思決定をサポート
3. 企業におけるMASの実践例
◆ 事例①:飲食店チェーン(年商3億円)
課題:原価率が高く、売上は伸びているのに利益が出ない
MAS内容:
・食材別の原価率を分析し、過剰仕入・廃棄ロスを特定
・商品メニューの見直しと価格改定を提案
・仕入先交渉、スタッフの教育、粗利率向上目標のKPI化
結果:粗利率が5%改善、年間利益が1,200万円増加
◆ 事例②:製造業(従業員50名)
課題:現場にコスト意識がなく、赤字体質から脱却できない
MAS内容:
・製品別の利益率を可視化し、赤字製品を洗い出し
・部門別の損益管理体制を導入
・毎月の業績報告会を開催し、経営層と現場の一体感を形成
結果:2年で黒字転換、現場の提案力も向上
◆ 事例③:サービス業(社長1人+社員5人)
課題:数字に弱く、勘と経験に頼った経営
MAS内容:
・毎月の数字報告(KPI)をチャット+ダッシュボードで提供
・経営者が「数字で話す」習慣を身につけられるよう支援
・資金繰り改善→銀行融資の実行支援→新規事業投資へ
結果:経営者の「感覚経営」が脱却でき、売上・利益ともに成長軌道に
MAS導入のメリットとデメリット
■ ビジネスにおけるMASのメリット(利点)
メリット | 内容 |
① 経営判断の精度向上 | 数値に基づいた分析・助言により、勘や経験頼みの経営から脱却できる。意思決定の根拠が明確になる。 |
② 課題の早期発見と対策 | 売上・利益・資金繰りなどのKPIを定期モニタリングすることで、問題の兆候を早期に発見し、対策が打てる。 |
③ 経営者の孤独を軽減 | 経営に関する相談相手ができることで、精神的な負担が軽くなり、意思決定に自信が持てる。 |
④ 社内意識の変革 | 数値目標やKPIの可視化により、現場社員の当事者意識が高まる。経営と現場が一体化する。 |
⑤ 融資・補助金の支援強化 | 経営計画や数値根拠を備えた資料が整備されることで、金融機関や行政への説明力が増し、調達や採択の可能性が高まる。 |
⑥ 中長期的な企業成長の基盤づくり | 継続的に改善と見直しを行うことで、戦略的な事業展開が可能となる。 |
■ MAS導入における潜在的なリスク・デメリット
デメリット | 内容 | 対応策・留意点 |
① 費用がかかる | 通常の税務顧問契約に加え、MAS契約は別料金となるため、費用負担が増える。 | 成果に見合う効果(利益増・資金調達成功など)を定期的に可視化し、納得感を高める。 |
② 担当者の能力に依存する | 担当者が数字を読めても経営への落とし込みが弱いと、提案が机上の空論になりやすい。 | 経営者の業界知識+会計士・税理士の数値感覚が融合した「翻訳力」のある人材を選定。 |
③ 経営者との相性・信頼関係が不可欠 | 助言が的確でも、経営者が信頼しなければ実行されない。 | 継続的なコミュニケーションと、実行可能性を重視した現実的提案が必要。 |
④ 社内での抵抗が起こる可能性 | 外部からの経営改善指導に対して、従業員や管理職が反発することがある。 | 導入初期に「現場の巻き込み」と「数字に基づく目的共有」がカギ。 |
⑤ 即効性はない | 一度導入しても、数ヶ月で成果が出るわけではない。継続的な運用が前提。 | 最初から「3〜6ヶ月は成果検証期間」と位置づけ、焦らずPDCAを回す。 |
MASを成功に導くためのポイント
MASは単なるアドバイス業務ではなく、“経営の意思決定を支える仕組み”として位置づけることで、その真価を発揮します。成功のカギは次の3点です。
1. 経営者との信頼関係とコミュニケーション
・数字だけを語るのではなく、「経営者の想い」や「現場のリアル」に寄り添う姿勢が重要。
・定期的な面談や経営会議への同席を通じ、継続的な対話の機会を持つことが信頼関係の構築につながります。
2. 実行可能なアクション設計
・立派な経営計画やKPIを提示しても、現場で実行できなければ意味がありません。
・業務量やリソースに応じた「実行できる施策」を、小さなステップで提案・伴走することが肝心です。
3. 効果測定と改善のサイクル
・MASは一度やって終わりではなく、「数値による効果検証→改善提案→再実行」というPDCAが不可欠。
・定量的なKPI(例:粗利率、営業利益率、キャッシュ残高など)を定期的にレビューし、改善状況を見える化します。
効果的なMASの活用法
以下のように段階的に導入することで、現場に無理なく定着させることができます。
ステップ | 活用方法例 | ポイント |
第1段階 | 月次試算表の可視化、資金繰り表の作成 | 現状把握と経営者の「気づき」創出が目的 |
第2段階 | KPI設計・月次経営会議の導入 | 経営判断を数字で支える文化を構築 |
第3段階 | 経営計画の策定支援・金融機関対応 | 資金調達や設備投資にも対応可能 |
第4段階 | 組織戦略・人材戦略への支援 | 中期成長に向けた戦略的パートナーへ昇華 |
また、クラウド会計やBIツール(freee、マネーフォワード、Power BI等)を活用することで、リアルタイムかつ視覚的な支援が可能になります。
法令遵守と監査の重要性
MASは「経営助言」であっても、会計・税務・資金に関わる情報を扱う以上、法令遵守と倫理性が不可欠です。
1. 独立性と中立性の確保
・税理士や会計士がMASを提供する場合、顧問契約との利益相反を回避する必要があります。
・特に監査業務とMASを併用する際は、日本公認会計士協会の倫理規程や税理士法に準拠する必要があります。
2. データ管理・個人情報の取り扱い
・クライアントの機密情報や経営戦略に関するデータを扱うため、情報漏洩対策やセキュリティ対応が必須。
・クラウドツールを活用する際も、プライバシーポリシーや利用規約の整備が求められます。
3. 適切な記録と説明責任
・MASの内容や提案内容は「記録化(議事録・報告書等)」し、経営者や関係者と合意形成を図る必要があります。
・万一のトラブル時にも、記録があることで説明責任を果たせるようになります。
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まとめ
この記事ではMASとは何かについて解説させていただきました。
この記事がお役に立てば幸いです。

平川 文菜(ねこころ)