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令和7年度相続税改正のポイント総まとめ:実務対応に必要な知識とは

公開日:2025/06/18

最終更新日:2025/06/18

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令和6年12月27日に閣議決定された「令和7年度税制改正大綱」により、相続税・贈与税に関する重要な改正が実施されることになりました。財務省の税制改正大綱によると、今回の改正は事業承継の促進と納税環境の整備を主眼とした内容となっており、実務担当者にとって重要な変更点が多数含まれています。

本記事では、令和7年度の相続税改正における主要なポイントを詳細に解説し、実務対応に必要な知識を網羅的にお伝えします。

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1. 令和7年度相続税改正の全体像

1.1 改正の背景と基本方針

今回の改正は、以下の社会情勢の変化に対応するものです。

少子高齢化の進行に伴う事業承継の円滑化
介護需要の増大に対応した納税猶予制度の拡充
実務の合理化を通じた納税者負担の軽減

改正の基本方針は「事業承継の促進」と「納税環境の整備」であり、従来の制度をより使いやすく、実情に即した内容に見直すことが重要な特徴となっています。

1.2 改正項目の全体像

令和7年度の相続税・贈与税改正は以下の6つの主要項目で構成されています:

1.結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置の延長
2.農地等の納税猶予制度における適用事由の拡大
3.個人事業用資産の贈与税納税猶予制度の要件緩和
4.非上場株式等の贈与税納税猶予特例制度の要件緩和
5相続登記等の登録免許税免税措置の延長
6.相続税の物納制度における物納許可限度額等の見直し

2. 主要改正項目の詳細解説

2.1 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置の延長

改正内容

直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税非課税措置の適用期限が2年延長され、令和9年3月31日までとなります。

制度の概要

非課税限度額:子育て資金1,500万円(うち結婚資金は300万円まで)
対象者:受贈者の年齢が贈与時において50歳未満
適用要件:金融機関との契約に基づく信託等により資金管理を行うこと

実務上の留意点

1.継続的な制度活用の重要性
 ◦延長により、長期的な資金計画の策定が可能
 ◦家族内での資産移転戦略の見直し機会

2.管理体制の整備
 ◦金融機関での適切な資金管理
 ◦使途の明確化と証憑書類の保存

3.税務調査への備え
 ◦適正な用途での資金使用の立証
 ◦関連書類の整理・保管体制の構築

2.2 農地等の納税猶予制度における適用事由の拡大

改正内容

農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度における営農困難時貸付け及び山林に係る相続税の納税猶予制度における特例山林の経営委託の適用事由に、「介護医療院への入所」が追加されます。

制度の背景

高齢化社会の進行に伴い、農業従事者の介護需要が増大している現状を踏まえ、介護医療院への入所を営農困難事由として認める必要性が高まっていました。

実務上の影響

1.適用範囲の明確化
 ◦従来の要件:身体障害等級1-2級、精神障害等級1級、要介護状態区分5
 ◦追加要件:介護医療院への入所

2.手続きの簡素化
 ◦介護医療院の入所証明書による営農困難の立証
 ◦農業委員会への申請手続きの効率化

3.税務調査での対応
 ◦入所の必要性に関する医学的根拠の整理
 ◦適切な貸付け契約の締結と管理

2.3 個人事業用資産の贈与税納税猶予制度の要件緩和

改正内容

個人の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度における事業従事要件が以下のように緩和されます:

改正前:贈与の日まで引き続き3年以上事業に従事
改正後:贈与の直前において事業に従事していたこと

適用時期

令和7年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用されます。

実務上の意義

1.事業承継の促進
 ◦急な事業承継にも対応可能
 ◦後継者の負担軽減

2.計画的な事業承継の推進
 ◦柔軟な承継時期の設定
 ◦事業継続性の確保

3.税務リスクの軽減
 ◦要件確認の簡素化
 ◦立証責任の軽減

2.4 非上場株式等の贈与税納税猶予特例制度の要件緩和

改正内容

非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例制度(法人版事業承継税制)における役員就任要件が以下のように緩和されます:

改正前:贈与の日まで引き続き3年以上役員就任
改正後:贈与の直前において役員就任していること

適用時期

令和7年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用されます。

実務上の重要性

1.事業承継の機動性向上
 ◦急な事業環境の変化への対応
 ◦後継者の確保と育成の柔軟化

2.特例措置の活用促進
 ◦2026年3月末までの特例承継計画申請期限への対応
 ◦2027年12月末までの贈与実行期限への対応

3.税務調査対応の簡素化
 ◦役員就任期間の立証が不要
 ◦書類整備の負担軽減

3. 実務対応のポイント

3.1 事業承継税制への対応

特例措置の活用期限

法人版事業承継税制(特例措置)の適用期限が迫っており、以下のスケジュール管理が重要です:
特例承継計画の申請期限:2026年3月31日
贈与の実行期限:2027年12月31日

実務上の準備事項

1.特例承継計画の策定
 ◦事業承継の具体的計画立案
 ◦経営承継円滑化法の認定申請

2.株式評価の実施
 ◦適正な株式価値の算定
 ◦評価方法の選択と検討

3.後継者の準備
 ◦経営能力の向上
 ◦役員就任のタイミング調整

3.2 農地の納税猶予制度への対応

営農困難事由の拡大への対応

1.適用要件の確認
 ◦介護医療院の入所要件
 ◦貸付け契約の適正性

2.必要書類の整備
 ◦入所証明書の取得
 ◦農業委員会への申請書類

3.継続管理の体制構築
 ◦定期的な営農状況の確認
 ◦貸付け契約の更新管理

3.3 贈与税非課税措置への対応

結婚・子育て資金の活用

1.資金計画の策定
 ◦長期的な資金需要の予測
 ◦適切な贈与時期の選択

2.管理体制の整備
 ◦金融機関との契約締結
 ◦資金使途の明確化

3.税務調査への備え
 ◦証憑書類の整理保管
 ◦適正使用の立証準備

4. 税務調査への対応

1. 改正の概要と影響

令和7年度の相続税改正により、事業承継税制や農地納税猶予制度の要件が緩和されましたが、その分、税務調査において形式だけでなく“実質的”な適用要件の充足が求められるようになりました。

2. 事業承継税制に関する対応ポイント

役員就任要件の緩和により、形式的でない実質的な経営関与の証明が必要
雇用確保要件では、労働者名簿や保険加入状況などの客観資料整備が重要
事業継続要件では、売上構成や取引先の変化などから継続性を立証

3. 農地納税猶予制度に関する対応

介護医療院入所に伴う営農困難性の合理性(要介護認定や診断書)を証明
農地貸付けの適正性では、貸付契約の実質性と借受人の適格性が焦点

4. 贈与税非課税措置への対応

・結婚・子育て資金贈与については、使途の妥当性と金融機関での適正管理が調査対象

5. 調査手法の変化

デジタル化の進展により、電子帳簿保存やオンライン調査への備えが必須
書面添付制度を活用することで、調査省略や信頼性向上が期待される

6. 税務調査への実践的な対応手順

通知受領後の初期対応: 対象年分・制度の特定、資料収集、チーム編成
調査準備段階: 書類整理・争点の洗い出し・反証資料の用意
調査当日: 根拠に基づいた説明を行い、事実を正確に伝える
調査結果対応: 修正申告と不服申立ての選択肢を適切に判断

5. 今後の展望と対策

5.1 制度の将来性

令和7年度の税制改正を踏まえると、今後の相続税・事業承継税制を巡る環境は大きな転換期を迎えつつあります。

まず、事業承継税制においては、2027年12月末をもって特例措置が終了する予定であり、それ以降は一般措置への移行が想定されます。これに伴い、制度の恒久化に関する議論も進んでおり、中小企業における事業承継の重要性を背景に、制度の安定的運用への期待が高まっています。

次に、相続税制全体の方向性については、令和7年度においては所得税の基礎控除のみが見直されたものの、今後は相続税の基礎控除額や課税範囲の見直しも検討課題となってくると考えられます。特に少子高齢化の進行や富の集中が進む中で、相続税の機能見直しは避けられない流れです。

また、税務行政のデジタル化も加速しており、電子申告や帳簿の電子保存、調査手続きのオンライン化など、手続きの効率化が求められる場面が増えています。実務対応の観点でも、こうしたデジタル化への対応力が問われる時代になりつつあります。

5.2 実務対応の戦略

今後の改正や行政対応に備えるため、税理士や実務担当者としては、短期的・中長期的に分けた戦略的な実務対応が重要です。

短期的には、令和7年度改正の内容を正確に把握し、各制度の適用要件を丁寧に確認することが第一歩となります。その上で、顧客に向けた説明資料の整備や相談体制の構築により、改正へのスムーズな対応が可能になります。

一方で、中長期的には、顧客ごとの状況に応じた制度活用の最適化を図ることが求められます。特例制度が終了するタイミングを見越した事前対策や、税務リスクの低減を目的とした継続的なアドバイスが不可欠です。

さらに、実務担当者自身の専門性を高めることも欠かせません。定期的な研修や勉強会への参加、実務経験の蓄積を通じて、制度改正に柔軟に対応できる体制を整えることが、今後の顧客対応力を左右します。

区分 内容 詳細
5.1 制度の将来性 事業承継税制の動向 ・2027年12月末で特例措置終了予定
一般措置への移行準備が必要
制度の恒久化に向けた議論が進展
相続税制の方向性 ・令和7年度は所得税基礎控除のみ改正
相続税基礎控除の見直しも将来的な検討課題に
デジタル化対応 電子申告の推進
税務手続きの効率化による実務負担軽減が進展
5.2 実務対応の戦略 短期的対応(令和7年度) ・改正内容の正確な把握と整理
・各制度の適用要件確認・説明資料の準備と相談体制の強化
中長期的対応(令和8年度以降) 個別最適な制度活用による税務リスクの低減
継続的な研修参加・事例蓄積による実務力の強化

6. 具体的な実務チェックリスト

制度区分 適用検討事項 継続管理事項
6.1
事業承継税制の適用検討
・特例承継計画の申請期限(2026年3月31日)確認
・対象会社の要件充足状況確認
・後継者の役員就任時期確認
・株式評価額の算定
・雇用確保要件の検討
・年次報告書の提出
・継続要件の遵守状況確認
・雇用数の管理
・事業継続状況の確認
6.2
農地納税猶予制度の活用
・営農困難事由の該当性確認
・介護医療院入所の必要性確認
・貸付け契約の適正性確認
・農業委員会での手続き確認
・定期的な営農状況確認
・貸付け契約の更新管理
・農業委員会への報告
・税務署への継続届出
6.3
贈与税非課税措置の活用
・対象者の年齢確認(50歳未満)
・資金需要の算定
・金融機関との契約準備
・資金管理体制の構築
・資金使途の適正性確認
・証憑書類の保管
・金融機関との定期的な確認
・税務調査への備え


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まとめ

令和7年度の相続税改正は、事業承継の促進と納税環境の整備を主眼とした重要な改正です。特に、事業承継税制における要件緩和は、多くの事業者にとって朗報といえるでしょう。

実務対応においては、各制度の詳細な理解と適切な手続きが重要です。特に、特例措置の期限が迫る事業承継税制については、早急な対応が求められます。

また、農地の納税猶予制度における介護医療院入所の追加や、贈与税非課税措置の延長など、社会情勢の変化に対応した改正内容も含まれており、実務担当者は幅広い知識の習得が必要となります。

今回の改正を踏まえ、顧客の個別事情に応じた最適な税務対応を提供することで、円滑な事業承継と適切な税務コンプライアンスの実現を図ることが重要です。継続的な制度の動向把握と実務スキルの向上により、より質の高い専門サービスの提供を目指しましょう。

この記事がお役に立てば幸いです。

執筆 ・ 監修

平川 文菜(ねこころ)

熊本出身。2018年京都大学卒業。在学中より税理士試験の勉強を始め、2018年12月に税法三科目(法人・消費・国徴)を同時に合格し、官報合格を果たす。 2018年9月よりBIG4 税理士法人の一つであるKPMG税理士法人において、若手かつ女性という少数の立場ながら2年間にわたり活躍。税務DDやアドバイザリーといった幅広い業務に従事。 2020年9月より、外資系戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループに転職。戦略策定から実行支援まで幅広い業務に従事。2024年12月にフリーランスとして独立。