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公開日:2025/05/15
最終更新日:2025/05/23

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インボイス、電帳法、そして物価高。
ここ数年、税理士業界を取り巻く環境は大きく変わりました。
これまで通りの顧問料では、サービス品質を守ることが難しくなりつつあります。
とはいえ、単に値上げを宣言するだけでは、顧客からの信頼を失いかねません。
値上げを成功させるには、「納得」と「期待」を生む工夫が不可欠です。
では、どのようにすれば顧客に受け入れてもらえるのか?
顧問料アップに成功している会計事務所の共通点から、その秘訣をひも解いていきます。
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税理士顧問料の値上げの背景
最近、税理士事務所で顧問料の見直し(値上げ)が増えている背景には、
「コスト増加」と「業務の複雑化の2つの大きな要因があります。
単にインフレの影響だけではなく、制度改正やデジタル対応による業務の高度化も大きな理由です。
1. 会計事務所の運営コストの増加
・人件費の上昇
人手不足による給与水準の上昇や、優秀な人材確保のための報酬改善が必要になっている。
・IT・システム投資の増加
電子申告義務化、インボイス制度、電子帳簿保存法対応のため、システム導入やクラウドサービス利用料が増加。
・事務所経費の上昇
物価高騰により、家賃・水道光熱費・通信費・消耗品費などが全般的に上がっている。
2. 業務の複雑化による影響
・インボイス制度への対応
仕入税額控除要件の厳格化に伴い、帳簿・請求書の確認作業が増加。記帳チェックにかかる時間が大幅に伸びている。
・電子帳簿保存法への対応
領収書・請求書の電子データ管理が求められ、保存・整理・検証作業が高度化。
・取引の多様化
ネット取引、サブスク契約、暗号資産取引など、新しいビジネスモデルへの対応が求められ、単純な記帳業務では済まなくなっている。
その他の背景は以下の通りです。
項目 | 内容 | 顧問料への影響 |
人件費の上昇 | 人手不足により、優秀な人材確保のため給与水準が上昇 | サービス維持のためコスト増 |
IT投資の増加 | クラウド会計、電子申告、インボイス・電子帳簿保存法対応に伴うシステム導入・維持費用 | 導入・運用コストの回収が必要 |
物価高騰による経費増 | 家賃・光熱費・通信費・備品代の値上がり | 事務所運営コストが増加 |
記帳業務の複雑化 | インボイス制度、電子帳簿保存法により帳簿・証憑管理が煩雑化 | 一件あたりの作業時間増加 |
取引形態の多様化 | ネット取引、サブスク、暗号資産など新型取引への対応が必要 | 仕訳・税務判断の複雑化 |
法改正対応の負担増 | 頻繁な税制改正へのキャッチアップと顧客対応が求められる | 研修・勉強コストが発生 |
顧客サービスの高度化要請 | 単なる申告代行だけでなく、経営アドバイス・資金繰り支援など付加価値サービスの要請が増加 | 人材と時間投資が必要 |
顧問料値上げのタイミングと理由
税理士事務所が顧問料を値上げする際は、慎重なタイミングと明確な理由づけが必要です。特に契約更新時を中心に交渉を行い、業務の効率化努力と人件費上昇のバランスを説明することで、理解を得やすくなります。
契約更新時の値上げ交渉
契約更新のタイミングは、顧問料の見直しを提案する最も自然な機会です。
このとき重要なのは、事前通知、理由説明、代替案の提示の三点セットです。
■ 交渉の基本ステップ
1.事前に通知する(更新2ヶ月前〜遅くとも1ヶ月前)
◦いきなり更新直前に告げると不信感につながる。
◦余裕をもって通知し、検討する時間を相手に与える。
2.値上げ理由を明確に説明する
◦運営コスト増加、業務複雑化、品質維持のための人件費上昇を具体的に伝える。
◦「値上げしなければサービス維持が困難になる」という誠実なスタンスを取る。
3.値上げ幅・新料金を明示する
◦現行顧問料と新顧問料を並べて示す。
◦増額幅は明確に(例:月額2万円→2万3千円、15%アップ)。
4.代替案も用意する
◦顧問範囲の見直し(業務を絞って据え置き価格も可能)
◦新しいサービス提案(例えば、月次面談オプションなど)
◦交渉の余地を残すことで関係悪化を防ぐ。
5.誠実な態度で交渉する
◦「お願いする」スタンスを忘れず、強引に押し付けない。
◦それでも受け入れられない場合、契約終了も選択肢として冷静に受け止める。
事務作業の効率化と人件費のバランス
税理士事務所においては、クラウドシステムやAIツールを活用した事務作業の効率化が進んでいます。
しかし、それと同時に人件費の上昇という現実もあり、両者のバランスを取ることが経営上の大きな課題になっています。
■ 事務作業の効率化の取り組み
・クラウド会計システムの導入
◦データ連携や自動仕訳による記帳作業の時間短縮。
・電子申告・電子帳簿保存への対応
◦書類保管・郵送コストの削減。
・AIによる自動データ読み取り
◦領収書、請求書のスキャン・データ化の自動化。
・ワークフロー管理システムの導入
◦業務進捗管理・タスク漏れ防止による生産性向上。
■ それでも必要な人件費
・専門的判断は人が必要
◦自動仕訳ではカバーできない、複雑な取引や税務判断には経験者の目が必要。
・クライアント対応は人が行う
◦問い合わせ対応、経営アドバイス、節税提案など、対人業務の質を維持するには人手が不可欠。
・法改正対応・監査対応も人の力
◦税制改正や監査指摘事項への対応は、人間の判断力と柔軟な応用力が求められる。
■ バランスの考え方
・ルーチン作業はできるだけ機械に
◦記帳、データ整理など、単純作業は自動化・外注でコスト削減。
・判断・提案領域は人材投資を惜しまない
◦高度な相談対応や提案力強化のため、優秀な人材にはしっかり投資する。
・結果、適正な顧問料設定が必要
◦効率化によるコスト削減努力+人件費上昇という二つの要素を踏まえた料金設定を行う。
顧客への影響とその対策
顧問料の値上げは、顧客にとって心理的負担となる場合があります。
そのため、単なる「値上げのお知らせ」ではなく、サービス向上の約束と丁寧なコミュニケーションをセットで行うことが重要です。
・コスト増への不安
→ 「支払う価値が本当にあるのか」という意識が高まる。
・比較・乗り換え検討の増加
→ 他の税理士事務所との比較・検討を始める顧客も出てくる。
・信頼感の低下リスク
→ 一方的な値上げ通知は「この事務所は顧客目線で考えていない」と受け取られやすい。
値上げに伴うサービスの向上
値上げに合わせて、顧客が「なるほど、それなら納得」と思える具体的なサービス改善策を提示することが重要です。
■ 具体例
・月次レポート・分析資料の質向上
→ 決算時だけでなく、月次段階で経営分析レポートを提供。
・個別相談の強化
→ 月1回まで無料相談枠を設ける、レスポンス速度向上を宣言。
・最新制度対応の情報提供
→ インボイス、電子帳簿保存法、税制改正などの最新動向をニュースレターやウェビナーで配信。
・担当者教育の強化
→ 税務・会計だけでなく、補助金、資金繰り支援など+α知識習得を目指す。
顧客満足度維持のためのコミュニケーション
顧問料値上げや業務内容変更など、顧客に影響を与える場面では、
事前に誠実かつ戦略的なコミュニケーションを取ることが極めて重要です。
ポイントは、単なる「情報提供」ではなく、
✅ 感謝
✅ 理由説明
✅ 今後のメリット提示
✅ 対話の機会提供
この4ステップをしっかり踏むことです。
ステップ | 内容 | ポイント |
感謝を伝える | まず「これまでのお付き合いへの感謝」を伝える | 信頼関係を前提に話を始める |
背景・理由を丁寧に説明する | なぜ値上げ・変更が必要かを誠実に伝える | 具体的な背景を隠さない |
今後のメリット・強化点を提示する | サービス向上、対応強化など未来志向で話す | 値上げ=サービス進化と印象づける |
対話の場を設ける | 個別面談・質問受付を用意し双方向にする | 「押し付け」でなく「一緒に進む」姿勢を見せる |
1. 感謝を伝える
・「長年ご愛顧いただき、心より感謝申し上げます。」
・「〇〇様と歩んできた実績を大切に思っています。」
→ まずポジティブな空気を作る。
2. 背景・理由を丁寧に説明する
・「社会的コスト上昇」「制度対応負担増」など、客観的な背景を説明。
・個別事例(インボイス対応で作業量が2倍に)など、具体例を交えると納得感アップ。
3. 今後のメリット・強化点を提示する
・月次レポート充実、レスポンス強化、最新税制情報の提供など、顧客にとっての得を示す。
・「単なる値上げではなく、より貢献できる体制を作ります」と明言する。
4. 対話の場を設ける
・「ご不明点、ご不安な点はいつでもご相談ください。」
・個別に説明会・オンライン面談を用意し、双方向性を確保する。
・クレーム予防にもつながる(=聞いてもらえた時点で不満が半減する)。
他の会計事務所との比較
以下の観点について意識すべきと言われています。
・顧問料の絶対額だけで勝負しない
→ 単なる価格競争に巻き込まれると、サービス低下を招くリスク大。
・提供サービスの範囲を明確に示す
→ 「何が料金に含まれているか」をはっきりさせることで、比較されても自信を持てる。
・付加価値(相談対応力・最新制度への適応力)を訴求する
→ 安さではなく、「質」で選ばれる立場を築くことが重要。
顧問料相場
(※地域や対象顧客(法人・個人)によって大きく差がありますが、ざっくりとした目安です)
顧問先区分 | 月額顧問料(税抜) | 決算料(年額) |
個人事業主(小規模) | 1万円〜3万円 | 5万円〜15万円 |
法人(年商1億円未満) | 2万円〜5万円 | 10万円〜30万円 |
法人(年商1億円以上) | 5万円〜15万円 | 30万円〜50万円以上 |
※これに加えて、記帳代行・給与計算・年末調整などを別料金で設定する事務所も一般的です。
先行事例から学ぶ値上げのポイント
ここでは、実際に値上げに成功している会計事務所の共通パターンを紹介します。
■ 成功している事務所の共通点
・「サービス向上」とセットで伝えている
◦単なるコストアップではなく、「今後こう言う支援を拡充します」と未来のベネフィットを示している。
・ターゲットを明確化している
◦「価格重視層」を追わず、「質を重視する層」に焦点を絞ることで無理な値下げ競争から離脱。
・事前通知を徹底している
◦値上げの6か月前〜3か月前に予告し、顧客に検討する時間をしっかり与えている。
・段階的値上げを導入している
◦いきなりフル値上げせず、半年〜1年かけて段階的に調整している(例:半年後に+10%、1年後に+さらに5%)。
・説明会・個別面談を開いている
◦主要顧客に対して「値上げ説明会」や個別相談会を開き、不満の芽を摘み取っている。
項目 | 成功している事務所の特徴 | ポイント・理由 |
値上げの伝え方 | 値上げ=サービス向上とセットで説明 | 単なるコスト増ではなく、未来の価値を強調 |
事前通知 | 3〜6か月前に余裕をもって案内 | 顧客に考える時間を与え、不満を抑制 |
顧客選別 | 価格重視層を無理に引き止めない | 質を重視する層に集中し、経営安定化 |
代替案提示 | 業務範囲調整・段階値上げ案など柔軟対応 | 顧客に「選択肢」を与えることで納得感アップ |
付加価値強化 | レポート充実、経営支援など+αサービスを拡充 | 「この値段でも頼みたい」と思わせる付加価値づくり |
コミュニケーション | 個別説明会・相談会を積極開催 | 不安・疑問を拾い上げ、信頼維持 |
スタッフ教育 | 新人・中堅に積極投資(研修・マナー・ITスキル) | サービス品質維持に直結、顧客満足度向上 |
顧客との長期視点共有 | 「短期コスト」より「長期利益」を説く | 値上げは一時的負担だが、長期利益に資することを説明 |
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まとめ
顧問料の値上げは、単なる「価格改定」ではありません。
それは、顧客との信頼関係をより強くし、サービスを進化させるためのチャンスです。
重要なのは、感謝を伝え、背景を誠実に説明し、未来への投資として位置づけること。
値上げに成功している事務所は、すべてこの基本を徹底しています。
この記事がお役に立てば幸いです。

平川 文菜(ねこころ)