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社労士と税理士、給与計算を依頼するならどっち?徹底比較

公開日:2025/05/30

最終更新日:2025/05/30

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給与計算をアウトソースしたいと思ったとき、多くの企業担当者が直面するのが「社労士と税理士、どっちに頼めばいいの?」という疑問です。

どちらも“給与計算ができる専門家”として知られていますが、業務範囲や対応可能な内容、費用感は大きく異なります。実は、頼む相手によって「できること/できないこと」が明確に分かれているため、知らずに選ぶと後悔するケースも少なくありません。

この記事では、社労士と税理士の違いを徹底比較しながら、自社に合った選び方をわかりやすく解説します。

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そもそも「給与計算」は誰でもできる?

意外に思われるかもしれませんが、給与計算そのものは、法的には“誰でも”行うことができます

つまり、会社の経理担当者、パート社員、外部のフリーランス、さらには専用の給与計算ソフトを操作できる人であれば、資格がなくても給与計算の実務は可能です。これは「給与計算」が、医師や弁護士のような独占資格が必要な業務ではないためです。

では、なぜ専門家に任せる企業が多いのか?

給与計算は一見単純な事務作業に見えますが、実際には以下のような複雑な判断法令対応が求められます。

✅ 給与計算に潜む“見えない業務”

・勤怠データ(残業・深夜・休日出勤など)の正確な集計
・法定控除(所得税・住民税・社会保険料など)の正確な計算
・非課税手当の判定や通勤費の課税区分
・毎月の源泉徴収とその税率の適用(扶養人数や甲・乙の区別)
・賞与計算や月途中入社・退社者の扱い

これらの業務はすべて“給与計算”の一部と見なされますが、実態は法律と会計の知識を必要とする高度な判断業務です。

✅ よくあるトラブル例

社会保険料の計算ミス → 後日差額請求
所得税の徴収漏れ → 年末調整で大混乱
未払い残業代 → 労基署からの是正勧告
通勤手当の課税漏れ → 税務調査で追徴課税

このような背景から、多くの企業は“できる”けど“任せられない”という判断をし、社労士や税理士といった専門家にアウトソースするのです。

重要なのは「給与計算+α」の業務

給与計算の周辺には、法的に専門家しか行えない「独占業務」が存在します。以下のような業務は、無資格者が有償で行うと法令違反になる恐れがあります。

業務内容 担当できる専門家 補足
年末調整・源泉徴収票の作成 税理士 税理士法による独占業務
社会保険・労働保険の手続き 社労士 社会保険労務士法による独占業務
税務申告・節税相談 税理士 税務代理・税務書類の作成
就業規則の作成・改定 社労士 労働基準法の専門的知見が必要

このように、単なる「給与の数字合わせ」だけで済むケースはむしろ少数派であり、実務では「税務」「労務」「会計」が密接に絡んでいることがわかります。

社労士と税理士の業務範囲の違い

給与計算を依頼する際に、「社労士でも税理士でもできるんじゃないの?」と思われがちですが、実は明確に線引きされた“担当領域”があります

これは単なる専門性の違いではなく、法律に基づく独占業務の区分によるものです。

✅ 社労士の業務範囲:労務と社会保険のスペシャリスト

社労士(社会保険労務士)は、主に「人」と「労働・保険」に関する業務を担う国家資格者です。以下のような業務を法的に独占しています。

社労士が対応できる業務(一部例):

業務内容 解説
社会保険・労働保険の手続き 健康保険・厚生年金・雇用保険などの加入・喪失手続き
労働保険の年度更新 労災・雇用保険の申告処理
入退社時の手続き 雇用契約書・離職票・資格喪失届など
就業規則の作成・変更 労働基準法に基づいた規程整備
助成金・補助金の申請支援 人材開発支援助成金、キャリアアップ助成金など
給与計算(社会保険料計算含む) ※ただし「税務」には関与できない

社労士が対応できない業務(注意点):

・年末調整(税理士の独占業務)
・所得税・法人税の申告
・源泉徴収票の作成
・節税アドバイスや税務相談

▶ まとめると:

社労士は「働く人を取り巻く制度全般に詳しい専門家」。給与計算はあくまで「労務手続きの一部」として扱う範囲に限られます

税理士の業務範囲:税務と会計のエキスパート

税理士は、主に「お金」と「税金」に関する業務を担う国家資格者で、以下の業務について法律上の独占権があります(税理士法第2条)。

税理士が対応できる業務(一部例):

業務内容 解説
年末調整・源泉徴収票の作成 所得税額の精算・法定調書の作成
源泉徴収・納付処理 給与から天引きした税金の納付
所得税・法人税・消費税の申告 税務代理・書類作成・相談全般
節税アドバイス 法人税や所得税の最適化策の提案
給与計算(税務の一環として) 社保計算は含まないことが多い

税理士が対応できない業務(注意点):

・社会保険や労働保険の手続き
・入退社時の実務対応
・労務トラブルへの対応
・就業規則の作成・届出

▶ まとめると:

税理士は「税金の全体管理」が強み。給与計算も、年末調整や税務申告とセットで行うケースが主流です

業務の交差点:給与計算という“グレーゾーン”

両者とも「給与計算業務」は対応可能ですが、取り扱う内容と観点がまったく異なります

観点 社労士が見るもの 税理士が見るもの
視点 勤怠、社会保険料、法定福利費 所得税、住民税、源泉徴収、年末調整
手続き範囲 入退社処理・社保加入・労基法対応 法定調書・税務署提出書類・法令税率チェック
連携の必要性 社労士が社保計算後、税理士が税務計算する 税理士が年末調整後、社労士が保険変更処理するなど

よくある誤解とトラブル例

誤解 実際には……
社労士に給与計算を頼めば年末調整もできる? 年末調整は税理士の独占業務であり、違法になる可能性
税理士に頼めば社会保険もすべてやってくれる? 税理士は社保関連業務には対応不可
小規模なら誰か一人にまとめて頼めばいい? 法的に業務を分担しないと、後々トラブルになる


結論:専門性と法的制限を理解した上で選ぶべき

観点 社労士が最適なケース 税理士が最適なケース
労務管理 入退社が多い、社保の手続きが頻繁 労務手続きは最小限
税務対応 税務申告は顧問税理士が別途対応中 税金の計算・年末調整まで一貫して任せたい
企業規模 従業員20人以上で労務対応が煩雑 従業員10人以下で税務効率化が優先


メリット・デメリットで比較!

社労士に依頼するメリットとデメリット

メリット:

入退社や社会保険の手続きとセットで任せられる
労務トラブル時に専門的アドバイスをもらえる
就業規則の整備や助成金申請の支援も可能

デメリット:

年末調整や税務申告はできない
源泉徴収票の作成は非対応

税理士に依頼するメリットとデメリット

メリット:

年末調整や源泉徴収票の作成を一括で任せられる
税務申告まで一気通貫で対応可能
節税や税務戦略に関する助言が得られる

デメリット:

労務トラブルの相談には対応できない
社会保険や入退社の手続きは別対応が必要

費用で比較すると?

給与計算の外部委託には「基本料金+人数単価」が一般的です。
以下はおおよその相場です。

費用項目 社労士 税理士
基本料金 月額1〜2万円 月額1〜2万円
人数単価 1人あたり500〜1,500円 1人あたり500〜1,000円
年末調整 対応不可 +5,000円〜
入退社手続き +3,000円〜 非対応
就業規則作成 +50,000円〜 非対応

▶ 費用感まとめ:

小規模(10人以下)企業:税理士の方がやや割安
中〜大規模企業(20人以上):社労士の方がトータルコストが抑えられることも

企業規模別のおすすめは?

給与計算をどこに外注すべきかは、企業の規模や成長ステージによって最適解が異なります。単純に「安いから」「知り合いに紹介されたから」といった理由で決めるのではなく、「何をどこまで任せたいか」と「どんな業務が多いか」をもとに判断することが大切です。

小規模企業(従業員1〜10人)の場合

この規模の企業は、社内リソースが限られており、事務担当者が経理も労務も兼務しているケースが多いのが実情です。こうした環境では、年末調整や源泉徴収といった“税務業務”まで一括対応できる税理士に依頼するのが効率的です。

特に年末調整は税理士の独占業務であるため、税理士に給与計算も一緒に任せることで、事務負担を軽減しつつ法令遵守を担保できます。

 ✅ おすすめ:税理士に一括委託
 理由:コスト効率がよく、税務処理までスムーズに対応できる

中規模企業(従業員11〜30人)の場合

このフェーズの企業では、入退社の増加や助成金の活用ニーズ、就業規則の整備など、労務に関する業務が一気に複雑化します。一方で、年末調整や税務処理の頻度・重要度も高まってくるため、「労務」「税務」のどちらを重視するかによって選ぶ専門家が分かれる段階 です。

労務周りの煩雑さが課題であれば社労士、税務の最適化や資金管理に重点を置くなら税理士、という具合に自社の課題に合わせて選択することが求められます。

 ✅ おすすめ:業務内容に応じて社労士または税理士を選択
 理由:両分野の重要度が拮抗しており、課題に応じたカスタマイズが必要

大規模企業(従業員31人以上)の場合

この規模になると、労務・税務ともに高度な専門性と法令対応が不可欠になります。就業規則や36協定の整備、雇用契約の管理、各種社会保険・労働保険手続きが常に発生する一方で、給与総額や税額も大きくなるため、税務リスクの管理も極めて重要です。

このような場合は、社労士と税理士の両方をパートナーとして連携体制を築くことが最も安心で確実な方法です。たとえば、社労士が毎月の勤怠・社保対応を行い、税理士が年末調整や源泉税対応を行うという分業スタイルが主流です。

 ✅ おすすめ:社労士と税理士の連携体制を構築
 理由:法令対応・効率化・リスク管理をすべて両立するため

実務的な選び方のステップ

1.自社の課題を明確にする
 ◦「労務の相談が多い」か「税務の正確性を重視」かで方向性が変わる

2.見積を複数取り比較
 ◦同じ「給与計算」でもサービス内容や対応範囲は事務所によって異なる

3.長期的な視点を持つ
 ◦成長ステージに応じて「専門家の連携」が必要になるケースもある

4.トラブルリスクも考慮
 ◦年末調整のミスや未加入の保険などが将来的な労使トラブルの火種に

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まとめ

給与計算の委託先として、社労士と税理士のどちらが“正解”というわけではありません。 それぞれの得意分野を理解したうえで、「何を重視したいか」を明確にして選ぶことが、最も合理的な判断です。

「労務トラブルを避けたい」→ 社労士
「税務処理まで完璧にしたい」→ 税理士
「全部まとめて任せたい」→ 両者の連携体制を整える

専門家を賢く選ぶことが、結果的に手間もコストもリスクも削減する最良の方法になります。

この記事がお役に立てば幸いです。

執筆 ・ 監修

平川 文菜(ねこころ)

熊本出身。2018年京都大学卒業。在学中より税理士試験の勉強を始め、2018年12月に税法三科目(法人・消費・国徴)を同時に合格し、官報合格を果たす。 2018年9月よりBIG4 税理士法人の一つであるKPMG税理士法人において、若手かつ女性という少数の立場ながら2年間にわたり活躍。税務DDやアドバイザリーといった幅広い業務に従事。 2020年9月より、外資系戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループに転職。戦略策定から実行支援まで幅広い業務に従事。2024年12月にフリーランスとして独立。