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公開日:2025/05/20
最終更新日:2025/05/30

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「年収の壁」がまた変わる——そう聞いてうんざりする方も多いのではないでしょうか。
103万円・106万円・130万円…この“見えない壁”が、働き方と所得に与える影響は年々大きくなっています。
しかし、その一方で制度はさらに複雑化し、税・社保・配偶者控除が絡み合う「迷宮」の様相を呈しています。
パートやアルバイト層の就労調整問題は、企業の人手不足とも密接に関係し、もはや家庭内の話題ではありません。
税理士にとっても、クライアントからの相談件数が増える領域のひとつです。
本記事では、改正の内容とともに、年収別の影響額やシミュレーションを交えて実務目線で解説します。
制度の全体像と今後の対応ポイントを、わかりやすく整理していきましょう。
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年収の壁とは?その背景と概要
「年収の壁」とは、配偶者やパートタイマーなどの所得が一定の金額(閾値)を超えると、税制や社会保険制度上の負担が急増し、結果として手取り収入が減少または増加しにくくなる現象を指します。特に女性の就労拡大を妨げる要因として、長年問題視されてきました。
背景
・少子高齢化による労働力不足が深刻化
・女性の就労促進を政府が推進中
・しかし制度の複雑さにより「働き損」が発生しやすく、就労調整が広がっている
年収の壁の本質
・制度上の「段階的ではない」取り扱いにより、特定の所得ラインで急激な負担増が発生する
・結果として労働時間を意図的に抑えるケースが多数
年収の壁が生じる理由
年収の壁は、以下の制度的要因によって生じます。
1. 所得税の配偶者控除・配偶者特別控除
・103万円以下:配偶者控除(38万円)を受けられる
・103万円超~201.6万円まで:段階的に配偶者特別控除が適用
2. 社会保険の扶養認定
・106万円超:大企業勤務者など一定条件下で、配偶者が社会保険に加入義務(※従業員数など要件あり)
・130万円超:原則、配偶者が被扶養者から外れ、社会保険に加入する義務が生じる
3. 手取り収入の逆転現象
・社会保険料の自己負担や税負担が発生すると、年収が増えても手取りはむしろ減少するケースも
「103万・106万・130万問題」とは?
いずれも働く配偶者の年収ラインに応じて、税制や社会保険の取扱いが変化する「壁」のことを指します。
【103万円の壁】
・所得税の配偶者控除の上限
・被扶養者のままでいられるが、超えると納税義務が生じる
・配偶者控除が適用されなくなり、世帯全体での税負担が増加
【106万円の壁】
・週20時間以上などの条件を満たしたうえで、一定規模の企業に勤務するパート従業員が社会保険の適用対象に
・健康保険・厚生年金への加入義務が発生
・社会保険料の自己負担によって手取りが大きく減少
【130万円の壁】
・年収130万円を超えると、扶養の範囲外となり、原則として国民健康保険・国民年金等の自己加入が必要
・専業主婦(主夫)としての社会保険の恩恵が消失
・特に中小企業勤務者に影響大
税制改正の動きと「基礎控除の特例」の導入とは?
政府は「年収の壁」による就労抑制を解消するため、一定の条件下で基礎控除を上乗せする特例制度を導入する方針を固めました。これにより、短時間勤務者の年収が一時的に増えても、手取りの減少を回避できるよう設計されています。
【制度の概要】
・一定のパート・アルバイト従業員について、の48万円の基礎控除に加えて、特例的に一定額(例:10万円〜15万円程度)を上乗せ
・上乗せ控除額は企業が申請し、要件に該当する従業員に適用
・適用期間は当面の間(時限措置)を予定
【対象者の要件】
・一定の時間数・収入額を超えて就労したパート・アルバイト
・企業側が基準を満たしたうえで、所定の申請手続を行っていること
・本人の合意・申告も必要とされる可能性あり
【目的】
・一時的な超過収入で手取りが減る「働き損」の回避
・年収の壁を気にせず働けるようにし、労働力供給の拡大を図る
改正内容の詳細
改正前
年収ごとに次のような「壁」が存在しています。
年収ライン | 内容 |
100万円 | 住民税の課税が開始される目安 |
103万円 | 所得税が課税され始めるライン(配偶者控除の上限) |
106万円 | 社会保険の加入義務が生じる(大企業等、一定条件あり) |
130万円 | 社会保険の扶養範囲から外れ、自分で加入が必要に |
150万円 | 配偶者特別控除が段階的に減額され始める |
201万円 | 超配偶者特別控除が完全になくなり、控除額0円に |
改正後
改正により「壁」のタイミングや控除の取扱いが段階的に・複雑になっています。
主なポイント:
・住民税の課税開始が110万円に引き上げ
◦一部緩和されたが、限定的。
・130万円の壁に対する緩和措置
◦図中の「130万?」は、今後検討されている社会保険扶養範囲の拡大または手取り減緩和措置の可能性を示唆させていただいています。
・基礎控除・給与所得控除の内訳
◦基礎控除:95万円
◦給与所得控除:65万円
◦合計:160万円までは控除で非課税にできる可能性
・配偶者控除の段階的縮小
◦配偶者の年収が上がるにつれて、配偶者控除が段階的に減る(図中の201万〜475万 → 476万〜665万 → 665万超)

想定される効果と注意点
【期待される効果】
・一定の範囲で「壁」の心理的・金銭的障害を緩和
・パートタイマーの就業時間増加による労働供給の改善
・税額・社会保険料の増加分を控除で相殺できるケースあり
【注意点】
・あくまで「時限的」「特例的」措置であり、制度の恒久化は未定
・特例の適用要件や申告手続に関する詳細な運用ルールが今後示される見込み
実務への影響と対応ポイント(税理士視点)
税理士がクライアント企業に対して注意喚起・支援すべき実務的観点は以下の通りです。
① 対象者の把握と社内制度設計
・基礎控除特例の対象になり得る従業員の把握
・就業調整を避けるための労働時間管理や雇用契約の見直し
② 年末調整・源泉徴収への影響
・特例控除を反映した年末調整の計算
・源泉徴収簿・源泉徴収票への記載対応
・控除適用のエビデンス収集と保管義務の明確化
③ 企業の申請支援
・特例適用に必要な申請書類の整備支援
・従業員への説明資料の作成支援
・税務調査等に備えた記録保存のアドバイス
具体的な影響額とシミュレーション
特例的な基礎控除の導入や「年収の壁」に関連する制度の変化により、パート・アルバイト層の年収ラインごとの手取りがどう変わるのかが注目されています。以下は現行制度と特例導入後の違いをわかりやすくシミュレーションしたものです。
年収別の税額シミュレーション
年収(万円) | 所得税(概算) | 社会保険料(概算) | 控除前手取り | 特例控除あり手取り | 増減額(目安) |
100万円 | 0円 | 0円(扶養範囲内) | 約100万円 | 同左 | ±0円 |
103万円 | 0円 | 0円(扶養範囲内) | 約103万円 | 同左 | ±0円 |
106万円 | 約2,000円 | 約14万円 | 約90万円 | 約92万円(特例控除反映) | +2万円 |
130万円 | 約1万円 | 約20万円 | 約109万円 | 約111万円(特例控除反映) | +2万円 |
150万円 | 約2.5万円 | 約23万円 | 約124.5万円 | 約127万円(特例控除反映) | +2.5万円 |
※特例控除による効果は年収や勤め先企業の申請状況により変動。
※配偶者控除の影響を除外し、本人所得にのみ着目。
扶養家族がいる場合の影響
扶養家族がいる場合、「年収の壁」を超えると本人だけでなく世帯全体の課税や社会保険の状況にも影響が及ぶため、慎重な判断が必要です。
影響のポイント
① 配偶者控除の適用可否
・夫婦世帯で配偶者がパート収入103万円以下:夫の所得から38万円控除可
・配偶者の年収が103万円超〜201.6万円未満:配偶者特別控除へ移行(控除額が段階的に減少)
② 社会保険上の扶養除外
・年収130万円を超えると、配偶者の社会保険扶養から外れるため、保険料の自己負担が発生
・仮に厚生年金に加入していない世帯では、国民年金・国民健康保険の両方に加入する必要がある
③ 世帯手取りへの影響(例:夫 年収500万円・妻パート)
妻の年収 | 扶養の状態 | 税・社保の変化 | 世帯手取りの変化(目安) |
103万円 | 扶養内 | 配偶者控除38万、社保不要 | ベストに近い(控除最大) |
106万円 | 扶養外(条件付き) | 社保負担発生、控除縮小 | 2〜3万円程度の手取り減 |
130万円 | 完全に扶養外 | 社保・税ともに自己負担 | 控除喪失・社保負担で実質−10万円超も |
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まとめ
「年収の壁」問題は、単なる控除額の話にとどまらず、税・社会保険・家族構成が複雑に絡む高度な設計領域です。今回の改正では一部の壁に手が入れられたものの、根本的な解決には至っていません。特例控除の適用可否や年収別の影響は、ケースバイケースで慎重な判断が必要です。税理士としては、クライアントの家族状況や就労実態に即した提案が求められる時代となっています。今後の法改正動向も踏まえ、継続的な情報収集と実務対応力が鍵となるでしょう。
この記事がお役に立てば幸いです。

平川 文菜(ねこころ)