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フリーランス新法とは?税理士が今すぐ知るべきポイントまとめ

公開日:2025/06/03

最終更新日:2025/06/03

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2024年11月1日、「フリーランス・事業者間取引適正化等法(以下、フリーランス新法)」が施行されます。働き方改革の一環として、従来は十分に保護されていなかったフリーランスの立場を法的に整備し、安心して働ける環境を提供することが目的です。

中小企業の顧問税理士や士業の皆様にとって、この新法は顧客支援の現場に直接影響を及ぼす重要な法改正です。本記事では、法律のポイントから実務への影響、企業・フリーランス双方の対応策までをわかりやすく整理します。

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法律の背景と目的

なぜ今「フリーランス新法」なのか?

フリーランス人口は年々増加しており、労働市場における重要な存在
・一方で、業務委託契約における報酬未払い、ハラスメント、契約条件の不明確さなど、構造的な弱点が露呈
・これらの課題を背景に、フリーランスの取引適正化と働く環境の整備を目的として、今回の法律が制定

分類 内容 補足・背景
1. 社会背景 働き方の多様化 フリーランス人口の増加(約462万人)雇用に縛られない働き方が一般化
2. 問題点 法制度の未整備 労働法の適用外・契約トラブルへの対応が困難
取引トラブルの多発 報酬未払い、契約不履行、ハラスメント、買いたたきなど
3. 保護の必要性 法的整備の遅れ 従来の下請法・民法ではカバーしきれないケース多数
法制度のすき間 労働者でも事業者でもない「中間的立場」の保護が未整備
4. 法律の目的 ①取引の適正化 契約明示義務、支払期日、禁止行為の明文化(担当:公取委・中企庁)
②就業環境の整備 ハラスメント対策、育児・介護配慮、中途解約予告(担当:厚労省)
5. 保護対象 フリーランスの定義 従業員を使用せず、個人で業務委託を受ける事業者
対象外 消費者との取引、法人、従業員を雇っている事業者
6. 実務上の意義 税理士の関与領域 契約チェック、報酬設定支援、ハラスメント防止体制の整備など
顧問先への影響 知らずに違反した場合、行政処分や企業名公表のリスクあり

定義と適用範囲

フリーランスとは:従業員を使用せず、事業者から業務委託を受けて働く個人
対象取引:企業(発注者)とフリーランス(受注者)間の業務委託契約
対象外
 ◦消費者からの業務委託
 ◦フリーランスが従業員を雇っている場合

発注者に課される7つの義務

法律では、発注事業者に対して以下の義務が課されます

義務項目 内容 適用条件 管轄官庁 実務上のポイント
① 取引条件の明示義務 書面または電子的手段で9項目を明示 全期間 公正取引委員会・中小企業庁 契約書、メール、PDFなどで明示可。記録の保存が重要。
② 報酬支払期日の設定・遵守 原則、業務完了から60日以内の支払い 全期間 同上 明確な支払日を契約書に記載する。遅延防止の体制整備が必要。
③ 7つの禁止行為の遵守 報酬減額、返品、買いたたき等の禁止 1か月以上の契約 同上 不当な変更・強要にあたる言動を控える。契約書で業務範囲を明確に。
④ 募集情報の適正表示 虚偽・誤解を招く表現の禁止 全期間 同上 SNSやWebサイトの募集文面も対象。誇大広告に注意。
⑤ 育児・介護等との両立配慮 働き方や納期などに配慮する義務 6か月以上の契約 厚生労働省 柔軟な納期設定、作業時間の調整など。本人の申出があった場合に対応。
⑥ ハラスメント対策 相談体制の整備、苦情処理など 全期間 同上 フリーランスに対するパワハラ・セクハラも対象。社内窓口の設置や研修を推奨。
⑦ 中途解約の事前予告 30日前までの予告が必要 6か月以上の契約 同上 契約書に予告期間を明示する。急な契約解除は違法リスクあり。

特に重要な「7つの禁止行為」

フリーランスを1か月以上継続的に業務委託する場合、発注者には以下の禁止行為が適用されます。

1.受領拒否:納品物を不当に受け取らない
2.報酬減額:契約後に報酬を一方的に減額
3.返品:正当理由なく成果物を返品
4.買いたたき:著しく低い報酬を提示
5.購入・利用強制:ソフトや物品の購入を強制
6.経済的利益提供要請:無償での労働や金品提供の要請
7.給付内容の不当変更・やり直し:費用負担なしの再修正・再作業を要求

※ これらの禁止行為は、たとえ“お願いベース”でも強制と受け取られるリスクがあります。

違反時の対応と罰則

1. 違反時の対応プロセス(行政処分の流れ)

違反が発覚した場合、行政機関は以下の手順で対応を進めます。

段階 内容 備考
① 指導・助言 違反の事実を確認し、改善を求める 初期対応。ここで是正すれば原則終了
② 勧告 指導に従わなかった場合に文書で改善を促す 法的拘束力はないが、公的記録に残る
③ 命令・公表 勧告にも従わない場合、命令を発し企業名を公表 社会的信用の大きな毀損につながる
④ 罰金(命令違反時) 命令に違反した場合、金銭的制裁 法人は最大50万円以下の過料が科される可能性あり

この段階的処分は「是正の機会を十分に与える」点が特徴で、悪質・反復的な違反に対して段階的に厳しくなります。


違反時の処罰の流れ


2. 違反行為の通報・相談窓口

フリーランスが違反行為を受けた場合は、以下の窓口に申出・相談できます:

窓口 対応内容 特徴
フリーランス・トラブル110番 法律相談、証拠整理、行政対応の助言 弁護士によるサポートあり(無料)
公正取引委員会 違反行為の申出、調査実施 オンラインでも申出可
中小企業庁/厚生労働省 関連する義務の違反申告 契約書の書式不備や支払遅延など
各地の弁護士会 個別相談・紛争解決 民事請求の手続きにも対応可能


相談・申出窓口


3. フリーランスが取るべき対応策

対策項目 内容 実務上の注意点
契約書の保管 書面またはPDF、メールなどで記録を残す 印刷・スクショも有効
やり取りの記録保持 チャット、通話メモ、請求書など できるだけ日時・内容が明確な形式で
早期相談の活用 トラブル時はすぐに専門窓口へ 感情的なやりとりの前に相談を


4. 発注企業側が取るべき予防策

対策項目 内容 実務ポイント
契約書の整備 9項目の明示内容を正確に記載 契約テンプレートを用意し、再発防止
支払期日の管理 60日以内の支払いを徹底 支払管理システム・経理体制の見直し
記録の保持 契約、業務指示、成果物受領の記録を保持 稟議書・社内メールも保存対象
社内教育・研修の実施 ハラスメント対策、法律遵守の周知 従業員・発注担当者へのeラーニング等


5. よくある違反と対応のヒント

違反例 受けやすいトラブル 予防法
「一部だけ受け取ります」 受領拒否とみなされる 成果物の検収ルールを明文化
「思ったより簡単だったので報酬は減額」 報酬減額 報酬は原則変更不可。再交渉は書面で
「納期早めてくれるなら他もやって」 経済的利益提供要請 別業務は別報酬で合意書を交わす


フリーランス新法における税理士の役割

以下に、「フリーランス新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」における税理士の役割を、発注者(企業側)と受注者(フリーランス側)に分けて体系的に整理しました。加えて、税理士が提供できる付加価値や、新たなビジネスチャンスとしての可能性にも触れます。

1. 発注企業(顧問先)への支援

フリーランスとの取引を行う中小企業やスタートアップの多くは、契約・支払・リスク管理の整備が不十分です。税理士は、以下の観点で支援が可能です。

項目 支援内容 実務例
契約書の整備 新法に準拠した雛形の提供やリーガルチェックの補助 ・明示9項目の記載支援・途中解約時の規定整理
報酬設計と支払管理 契約報酬の妥当性判断、支払サイトの設計 ・消費税・源泉税考慮済の報酬体系支援
禁止行為の周知 社内向けハンドブックや研修資料の作成支援 ・「やってはいけない7つの行為」リスト化
体制構築支援 ハラスメント相談窓口や記録管理の提案 ・外注管理プロセスの棚卸と改善提案
行政対応の予防策 公取委や厚労省からの指導を回避する体制整備 ・業務委託フローのマニュアル化

2. フリーランス側の支援

個人フリーランスにとって、税理士は単なる税務申告のパートナーではなく、契約・取引リスクへの伴走者にもなれます

項目 支援内容 実務例
契約書のチェック 新法の9項目が明記されているか確認 ・納品日・支払期日・報酬額の妥当性確認
トラブル発生時の対応助言 相談窓口の紹介、証拠の整理支援 ・フリーランス110番や弁護士紹介
請求・入金管理の体制化 記帳代行だけでなく報酬未払いリスクの抑止 ・入金遅延時の再請求文書作成サポート
ハラスメント被害の初期対応 税理士としての立場での第三者的アドバイス ・メール・チャット履歴の整理支援

3. 税理士にとっての新たなビジネスチャンス

視点 概要 具体例
フリーランス法務顧問パッケージ 月額数千円〜で契約書チェック・相談対応 Chat対応型サービスの開発など
企業向け外注管理コンサル 新法対応の外注体制を整備 ・契約書テンプレ作成+リスク研修セット販売
契約書作成代行×税務顧問 法務と税務を融合させた顧問契約 他士業と連携したワンストップ提供
業務委託支払業務のアウトソース支援 支払期日管理+記帳+源泉処理まで一括管理 経理BPOの一環として提供可能


4. 税理士が対応すべき準備チェックリスト

項目 対応内容
法律の正確な理解 公取委・厚労省の解説資料に目を通す
契約書の知識強化 書面明示9項目・禁止行為・契約解除規定
自事務所の対応体制確認 フリーランスとの業務委託があれば対象になる
顧問先への啓発 メルマガ・セミナー・ニュースレターでの発信
他士業との連携構築 弁護士・社労士との相談体制の構築


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まとめ

目的 行動
顧客(発注者)のリスク管理 契約書チェック、社内研修支援
フリーランス支援の強化 契約内容の明確化、トラブル時の相談支援
新規ビジネスの展開 「フリーランス法務顧問」としてのパッケージ提供

フリーランス新法は、単なる法改正ではありません。社会構造の変化に対応した新しい「働き方のルールブック」です。税理士として、顧問先の企業やフリーランスのクライアントに対し、適切な対応を促すことは、信頼の維持・強化につながります。

この記事が参考になれば幸いです。

執筆 ・ 監修

平川 文菜(ねこころ)

熊本出身。2018年京都大学卒業。在学中より税理士試験の勉強を始め、2018年12月に税法三科目(法人・消費・国徴)を同時に合格し、官報合格を果たす。 2018年9月よりBIG4 税理士法人の一つであるKPMG税理士法人において、若手かつ女性という少数の立場ながら2年間にわたり活躍。税務DDやアドバイザリーといった幅広い業務に従事。 2020年9月より、外資系戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループに転職。戦略策定から実行支援まで幅広い業務に従事。2024年12月にフリーランスとして独立。