INDEX
おすすめ記事
-
社労士と税理士の違いを徹底解説!仕事内容や難易度の真実
-
事業承継士資格のメリットとキャリアパス
-
大手税理士法人は激務ってホント?大手税理士法人の年収や業務形態とは
-
【2025年4月施行】出生後休業支援給付金ガイド|育児を支える新しい制度
-
米国税理士(EA)の将来性とキャリアパスを考える
公開日:2025/05/19
最終更新日:2025/05/30

INDEX
企業経営において、月次の財務データをどれだけ正確かつ早期に把握できるかは、意思決定の質を左右します。その土台となるのが、税理士による「月次監査」という定期的なチェック業務です。単なる帳簿の確認にとどまらず、経営改善や税務リスク低減にもつながる重要なプロセスです。
特に中小企業においては、外部専門家の支援なくして正確な財務管理を行うことは困難です。
月次監査を効果的に機能させるためには、業務の目的、手順、事務所との連携、報酬体系まで多面的な理解が必要です。
この記事では、税理士が月次監査を提供・運用する際に押さえるべきポイントを体系的に解説します。
経営者との信頼関係構築や、会計サービスの差別化にもつながる実務ノウハウを網羅しています。
明日からの顧問業務にすぐ活かせる内容を、具体例とともにお届けします。
働きがいのある会計事務所特選

ミツプロ会員は会計事務所勤務に役立つ限定コンテンツをいつでも閲覧できます。
⇒無料で会員登録して雑誌を見る
月次監査とは?
月次監査とは、企業の経理・会計処理が正確に行われているかを毎月チェックする業務のことです。顧問税理士が定期的にクライアント企業を訪問またはオンラインで確認を行い、帳簿の整合性や適正性を確保するために実施されます。
特徴
・月単位で行う点検・確認業務
・財務諸表の信頼性を高める
・税務申告時のトラブル回避に寄与
・経営判断に必要な情報のタイムリーな提供が可能
月次監査の基本的な定義と目的
月次監査は、会計帳簿の定期的な精査を通じて、企業の健全な経営管理と正確な税務申告を支援するためのプロセスです。
主な目的
項目 | 内容 |
会計の正確性確保 | 毎月の仕訳や帳簿に誤りがないかをチェック |
税務リスクの低減 | 税務調査で問題とされる可能性のある処理を早期に是正 |
経営への貢献 | 最新の財務状況を基に経営判断をサポート |
決算早期化 | 年度末の慌ただしい処理を避け、スムーズな決算へ |
月次監査で確認する主な項目
・現金出納帳・預金帳の突合
・売上・仕入の記録の整合性
・経費処理の妥当性(交際費、旅費交通費など)
・勘定科目の正しい使用
・消費税の区分処理
・給与・役員報酬の処理と源泉徴収
税理士にとっての意義
・クライアントとの継続的な関係構築
・経営コンサルティングへの展開が可能
・年間顧問契約の付加価値向上
月次監査のメリット
月次監査は、単なる「会計チェック」ではなく、企業経営の健全性を支えるインフラ的な役割を担います。定期的に実施することで、以下のような多面的な効果をもたらします。
主なメリット
メリット | 内容 |
財務の透明性向上 | 月次で数値を可視化し、経営層の意思決定をサポート |
税務リスクの軽減 | 誤りや不適切な処理を早期発見・是正 |
決算作業の効率化 | 期末の負担を軽減し、決算早期化に寄与 |
経営数値の「鮮度」確保 | 最新の財務情報を常に把握可能に |
金融機関対応の強化 | 融資審査時の信頼性を高める資料として活用可能 |
経理担当者の育成 | 外部チェックを通じて記帳水準が向上 |
企業における財務透明性の向上
月次監査によって、企業内の財務数値がリアルタイムで正確に把握される体制が構築されます。これにより、社内外に対する説明責任が強化されます。
財務透明性向上の具体的効果
・社内の意思決定が「勘」から「データ」へシフト
・黒字倒産などのリスクを未然に把握・対応
・ステークホルダー(株主・取引先・金融機関)への信頼性向上
・会計操作や粉飾の抑止効果
税務リスクの軽減
税務調査での指摘リスクを低減できることは、経営者にとって非常に大きなメリットです。月次監査により、税務上のグレーな処理を未然にチェック・修正することが可能です。
月次監査による税務面の安心感
・消費税区分の誤り、交際費・福利厚生費の按分漏れを事前に把握
・記帳漏れや二重計上の是正
・給与・役員報酬の適正額や源泉徴収のミスを防止
・税務調査時に「帳簿の正確性」を示す根拠になる
月次監査のプロセス
月次監査は「毎月の定型業務」ですが、企業の状況や税理士事務所の方針によって細かい手順が異なります。以下は一般的な流れです。
月次監査の基本フロー
ステップ | 内容 |
① 事前準備 | 会計データの提出依頼(試算表・領収書・通帳コピー等) |
② データ確認 | 会計ソフトと証憑の突合、残高確認 |
③ 質問・不明点の洗い出し | 不明な仕訳や処理内容をピックアップ |
④ クライアントとの確認 | 社長や経理担当者へ確認・指導 |
⑤ 修正仕訳の入力 | 必要な訂正処理を実施・記録 |
⑥ レポート作成 | 月次報告書・課題指摘事項をまとめる |
⑦ 次月への引き継ぎ | 継続的な改善点の整理と対策提案 |
税理士による巡回と会計士の役割
税理士の主な業務
・顧問契約に基づく定期訪問(巡回監査)
・記帳指導や会計処理の適正性チェック
・経営者への財務分析レポートの提供
・税務的観点からの指導(減価償却、役員報酬等)
公認会計士との違いと補完関係
比較項目 | 税理士 | 公認会計士 |
主な業務 | 税務申告、会計指導 | 財務諸表監査、上場企業の会計監査 |
関与する企業規模 | 中小企業中心 | 大企業・上場企業中心 |
月次監査との関係 | 実務に深く関与 | 原則として関与しないが、顧問契約で助言する場合あり |
※月次監査は税理士業務の一環であり、会計士が単独で実施することは少ない
事務所との連携とコミュニケーション
月次監査の品質を保つためには、税理士本人だけでなく、事務所全体との連携体制が重要です。
スムーズな連携のためのポイント
・担当者ごとの業務分担の明確化
└ 記帳、チェック、報告の役割を分ける
・定期的な内部ミーティング
└ 対象企業ごとのリスクや対応方針を共有
・クライアントとの情報共有の一元化
└ チャットツール(Chatwork、LINE Works)やクラウドストレージの活用
・急ぎの質問対応ルールの明文化
└ 対応のスピードと正確性を両立する体制
月次監査と税務相談
月次監査は「会計の点検」にとどまらず、税務相談の土台を築く重要な機会でもあります。毎月の会計状況を把握している税理士だからこそ、企業ごとの最適なアドバイスが可能です。
月次監査を活用した税務相談の例
・今期の利益予測と法人税対策
・消費税の課税・非課税の判断の再確認
・固定資産の購入タイミングのアドバイス
・賞与や役員報酬の支給方針の見直し
・新規事業・設備投資に伴う税制活用提案
税理士による専門的な支援
税理士は、会計と税務の両面から経営に伴走できるプロフェッショナルなパートナーです。特に月次監査を行っている場合、企業の財務状況を常時把握しているため、実践的な助言が可能になります。
専門的支援の具体例
支援分野 | 提供できるサービス |
節税 | 中間決算・利益調整の助言、税制適用の可否判断 |
資金繰り | 資金予測と納税資金の確保支援 |
記帳・経理 | 経理担当者への教育、業務フローの見直し |
法人運営 | 役員報酬の適正化、退職金制度の導入検討 |
相続・承継 | 自社株評価、事業承継税制の適用可能性検討 |
企業が活用できる税務アドバイス
税務相談のタイミングを「決算前」だけに絞るのは非常にもったいないことです。月次ベースで継続的なアドバイスを得ることで、企業はより戦略的な経営判断が可能になります。
企業が積極的に活用したい相談テーマ
・毎月の利益推移と納税額の概算把握
・節税策(倒産防止共済、小規模企業共済など)の導入判断
・業績連動型の賞与や役員報酬制度の設計
・消費税の簡易課税 or 原則課税の選択比較
・税制改正の影響と早期対応策
月次監査を実施する際のポイント
月次監査は「定期的にやっていれば安心」というものではなく、継続的な改善と相互理解が求められるプロセスです。双方が共通認識を持って進めることが重要です。
成功する月次監査のための3つの視点
1.目的の明確化
└ 税務対応のためか、経営判断のためかを明確に
2.作業範囲の可視化
└ 誰が何を、どの範囲まで確認・修正するのか
3.継続的なフィードバックループ
└ ミスや改善点を次月に反映し、精度向上につなげる
契約時に確認すべきポイント
契約時の認識ズレは、後のトラブルの原因になります。業務内容・対応範囲・費用の透明化が極めて重要です。
契約前にチェックすべきこと
項目 | 確認すべき内容 |
サービス範囲 | 記帳代行の有無、税務相談回数、帳票作成範囲 |
訪問頻度 | 月1回必須か、リモート対応で代替可能か |
担当者 | 資格者が訪問するか、補助スタッフか |
緊急対応 | 問い合わせ時の返答スピード・チャネル(電話/チャット等) |
契約解除条件 | 途中解約可能か、最低契約期間の有無 |
料金体系 | 月額報酬+オプション(決算・年末調整等)明示されているか |
業務時に確認すべきポイント
業務が始まった後も、業務が惰性化しないようにチェック項目と対話を意識的に設けることが成功のカギです。
月次監査の現場で押さえるべきこと
・帳簿データと証憑(請求書・領収書・通帳コピーなど)の突合
・消費税区分・摘要欄の記載ルールが守られているか
・売掛金・買掛金残高の不一致・未処理の確認
・経費の按分処理(社用/私用)の妥当性
・給与・役員報酬と源泉処理が適正か
・修正事項・指導内容の記録と次回への引き継ぎ
税理士側が重視すべきこと
・指摘の背景を丁寧に説明し、企業側の納得感を得る
・担当者の知識レベルに応じて言葉を使い分ける
・毎月の「課題整理」と「小さな改善提案」を欠かさない
見落としがちな観点
月次監査に関して税理士が企業に提供する際、見落としがちながら重要な観点はまだいくつかあります。以下に、実務上・戦略上ともに有用な観点を説明させていただきます。
1. 経営者との「目的共有」が最優先
・月次監査は「税務のための作業」になりがちだが、経営者にとっては「数字に基づく意思決定支援」が本音のニーズ。
・最初に「何を得たいのか(例:資金繰り/利益予測/借入対策)」をヒアリングしておくと、信頼関係が深まりやすい。
2. 月次監査を「経営モニタリング」に昇華させる
・仕訳の確認だけでなく、以下のような視点で情報提供できると価値が上がる:
分析項目 | 意味すること |
月次売上・粗利推移 | 売上構造の変化と仕入計画の妥当性 |
キャッシュフロー | 入出金のズレと資金ショートの兆候 |
経費の異常値 | 無駄な固定費や交際費の見直し提案 |
月次の利益予測 | 節税策・役員報酬の見直し時期の判断材料 |
3. 社内経理体制の成熟度を見極める
・経理担当者のスキル差によって、監査手法を柔軟に変えることが必要。
◦初級者:記帳精度チェックと教育支援がメイン
◦中級者以上:分析視点の提供や運用フロー改善へシフト
4. 年次決算との「整合性」を意識する
・月次監査での処理と決算整理仕訳が乖離していると、結局「決算で全部直す」ことになり、月次監査の意味が薄れる。
・月次から資産計上/減価償却/引当金などを意識することで、決算時の修正負担と時間を最小限にできる。
5. 顧問契約更新・報酬見直しの根拠に使う
・月次監査の履歴を「業務報告書」として体系化すれば、サービスの成果を可視化しやすい。
・毎年の顧問料見直し、税務調査時のエビデンス、補助金・融資申請時の資料としても応用可能。
働きがいのある会計事務所特選

ミツプロ会員は会計事務所勤務に役立つ限定コンテンツをいつでも閲覧できます。
⇒無料で会員登録して雑誌を見る
税理士が教える!月次監査の重要性と実施手順 -まとめ
月次監査は、企業経営を裏側から支える「情報インフラ」としての機能を持ちます。
会計の精度向上だけでなく、税務リスクの事前察知や資金繰り支援といった多様な価値を提供できます。
その価値を最大化するには、契約時の目的共有や業務範囲の明確化が欠かせません。
また、事務所内外の連携体制や、経理担当者との丁寧なコミュニケーションも成功の鍵となります。
形式的なルーチン業務にせず、毎月の報告やアドバイスに「提案型」の視点を取り入れることが、信頼関係の深化につながります。
近年では、クラウド会計やAIの活用により、月次監査のスタイルも進化しています。
税理士としての専門性を活かしながら、付加価値型の月次監査へとアップデートしていくことが求められています。
企業経営の伴走者として、数字に強い税理士の力を最大限に発揮できる場面こそが、月次監査なのです。

平川 文菜(ねこころ)